プロスポーツの主要なライブ中継が、iPhoneだけで撮りきられた——Apple TVが先月放送したメジャーリーグサッカー(MLS)のLA Galaxy対Houston Dynamo FC戦は、まさにそのお披露目でした。ただし、その15台のうち7台には1台あたり$265,000(約4,000万円)のシネマ用レンズが装着されており、「ほぼ」と但し書きを付けざるを得ないのが実情です。9to5Macが、CNETによる現場取材をもとにその実態を伝えています。

15台のiPhone 17 Pro Maxで撮影——8台は素のレンズのまま

中継に投入されたのは15台のiPhone 17 Pro Maxです。このうち8台は内蔵レンズのみで撮影しており、MLSのMedia担当エグゼクティブ・バイス・プレジデントを務めるSeth Bacon氏は、この8台こそが「最も付加価値があった」と語っています。

Bacon氏によれば、通常の中継より2〜3台多いカメラを配置できたほか、従来の大型レンズ機では入り込めなかった位置にiPhoneを置けたことが大きな利点でした。具体的にはゴール裏や、ベンチでチームに向き合うサイドラインの真横などです。

Bacon氏は、試合前のフィールド上でのプレビューで次のように語っています。

「あのベンチカメラのような位置には、通常そこまで近づけることができません。代わりに、フィールドの反対側から撮ってリアクションショットを得るのが普通です。iPhoneのコンパクトさを活かしてそこに置けるというのは、私たちにとって大きな前進です」

視聴者目線で見れば、ベンチ脇に張り付くカメラは、これまで遠景の引きでしか拾えなかった選手の細かな表情や、コーチが身振りを交えて指示を出す瞬間といった近接ショットを映し出すことになります。物理的に小さい筐体だからこそ可能になる画角の獲得が、この実験の最大の収穫でした。

残り7台には1台$265kのシネマレンズ——合計約$2 million

タイトルに「ほぼ(kind of)」という留保が付くのは、残り7台のiPhoneに装着されていたレンズが、一般消費者には到底手の届かないものだったからです。

CNETによると、それらはFujinon Duvo 25-1000 Cinema Box Lensesと見られ、1台あたり$265,000(約4,000万円)。7台分を合計すると約$2 million(約3億円)相当のレンズ群が、iPhoneの本体に装着されていた計算になります。

つまり遠距離からズームで選手を捉えるショットについては、依然としてプロ放送級の光学系に頼っていることになります。iPhoneの強みが発揮されたのは、あくまで本体内蔵レンズで撮れる近接ポジションでの撮影でした。

マイクは「colorful language」リスクで見送り

もう一つ興味深いのは、これだけ選手やコーチに近い位置にiPhoneを置きながら、その内蔵マイクから音声を中継に乗せることには、MLSはまだ踏み切っていないという点です。

その理由として挙げられているのが、緊迫した場面で発せられるかもしれない「colorful language」、つまり放送に不適切な言葉が拾われてしまう可能性です。映像の優位性は明確でも、音声収録に踏み込むには別のハードルがあると判断されたかたちで、今後の余地は残されています。

次は他競技にも来るか——iPhone中継の射程

今回の中継は、フォームファクターの小ささを武器に既存の中継カメラでは届かない位置を埋める、という限定的な役割でiPhoneを使った試みです。本格的なズームショットを担うのは、依然として超高額のシネマレンズでした。

それでも「ベンチに張り付くカメラ」が普通に撮れるようになっただけで、視聴体験は大きく変わります。同様の小型カメラ運用がほかのリーグや他競技にも広がるかどうかが、次の見どころになりそうです。現時点では「iPhone単体でプロスポーツ中継が完結する」と判断するのは早く、続報を待つのが妥当でしょう。

撮影はBlackmagic Camera + Apple Log 2 で——1080p60のプロダクション仕様

中継に投入されたiPhone 17 Pro Maxは、全機がBlackmagic Camera Appを動かし、Apple Log 2で1080p60記録を行っていたと報じられています。

民生機を超える制御レイヤー

標準のカメラアプリではなく、Blackmagic Camera App経由で運用された点が、放送現場における位置づけを大きく変えています。露出やコーデック、メタデータをカメラオペレーターが理解できる文法で制御でき、外部モニタリングや専門的なコントロールツールへの接続も可能で、iPhoneを大規模な中継エコシステム内のコンパクトなカメラヘッドとして扱える設計です。iPhone 17 Pro自体も48MPのFusionカメラを3基搭載し、実質8つの焦点距離をカバーする構成で、Apple Log 2に対応しています。

「Friday Night Baseball」から続くApple TVのiPhone投入——殿堂入り済み

Apple TVがライブスポーツ中継のワークフローにiPhoneを組み込んだのは、今回のMLS戦が最初ではありません。

Friday Night Baseball からMLS Cupへ

最初の事例は2025年9月、Boston Red Sox対Detroit Tigersの「Friday Night Baseball」で、iPhone 17 Proを試合の特定シーンの収録に用いる形でした。この中継に使われたiPhone 1台は、米国野球殿堂博物館(National Baseball Hall of Fame and Museum)の永久収蔵品となっています。ファンの反応を受けてAppleは活用範囲を2025年のMLS Cupなどに広げ、2026年シーズンには「Friday Night Baseball」とMLS中継の通常制作ローテーションにも組み込んでいます。LA Galaxy対Houston Dynamo FC戦は、その延長線上で「全カメラがiPhone」へと踏み込んだ節目です。

Q&A

Q. 何台のiPhoneが使われ、内訳はどうなっていますか? 合計15台のiPhone 17 Pro Maxが投入されました。うち8台は内蔵レンズのみで撮影し、残り7台には外付けのシネマ用レンズが装着されていました。

Q. 装着されていた外付けレンズはどのようなもので、価格はいくらですか? CNETによれば、Fujinon Duvo 25-1000 Cinema Box Lensesと見られるレンズで、1台あたり$265,000(約4,000万円)です。7台分の合計は約$2 million(約3億円)相当に上ります。

Q. iPhoneを使うことで、従来の中継カメラと比べてどんなメリットがあったのですか? Bacon氏によれば、画質そのものではなく配置の自由度です。大型レンズ機では入り込めないゴール裏やベンチ脇といったポジションにiPhoneを置けたことで、通常より2〜3台多いカメラ配置と、リアクションショットを反対側から撮らずに済む近接ショットが可能になったと説明されています。

出典