4万8千人が18日間ストップ——Samsungが同社史上最大のストライキに直面しています。韓国GDPを0.5ポイント押し下げる可能性も指摘される事態で、メモリ部門が第1四半期に過去最高の売上を記録した直後にもかかわらず、ボーナス配分を巡って労組と経営側の対立が深刻化しています。DRAMやNANDの供給を握る巨人の労働停止は、スマートフォンやSSDの価格・供給を左右する可能性があり、テック業界全体が注視しています。
4万8千人が18日間のストライキを計画
GSMArenaの報道によれば、ストライキの対象となるのはSamsungのDevice Solutions(DS)部門の従業員です。DS部門にはメモリ事業、チップセットを設計するSystem LSI、そしてSamsung内製品および外部顧客向けにチップを製造するファウンドリ事業の3つが含まれています。
ストライキは木曜日からの開始が予定されており、期間は18日間とされています。労使間で合意に至るか、韓国政府が介入しない限り実施される見込みです。Samsungは生産ラインへの損害を防ぐため、必須機能を維持する目的で7,087人の従業員に職場残留を要請しています。これとは別に、月曜日には裁判所がSamsungの申し立てを一部認め、部分的な仮処分を発令しました。
ボーナス上限50%の撤廃が最大の争点
対立の核心はボーナス制度にあります。Samsungには従業員の年収の50%を上限とするボーナスキャップが存在しており、労組はこの上限の撤廃を求めています。さらに、年間営業利益の15%をボーナスとして配分するよう要求しています。
比較対象となっているのが、世界第2位のDRAMメーカーであるSK Hynixです。SK HynixはAIブームによる利益を従業員と分配しており、ボーナス上限を撤廃しました。その結果、昨年はSK従業員のボーナスがSamsung従業員より3倍高い水準となったと報じられています。GSMArenaは、SamsungがすでにSKへ一部の従業員を失っていると報じています。
| 比較項目 | Samsung | SK Hynix |
|---|---|---|
| DRAM市場地位 | 首位 | 第2位 |
| ボーナス上限 | 年収の50% | 撤廃済み |
| 昨年のボーナス水準 | SK Hynixの約3分の1(推定) | Samsungの3倍 |
メモリ部門は他部門の最低6倍ボーナス——内部格差も火種
労組が問題視しているのは外部との比較だけではありません。DS部門内部でも事業ごとに業績格差が生じており、メモリ事業が好調な一方で、System LSIとファウンドリ事業は苦戦しているとされています。
Samsungはボーナスを業績好調なメモリ部門に重点配分する方針で、2万7千人規模のメモリ事業従業員は、System LSIおよびファウンドリ事業の従業員と比較して最低でも6倍のボーナスを受け取る可能性があると報じられています。労組はこれを不公平と見ており、不満を抱えた従業員が他社へ流出することへの懸念を示しています。
韓国輸出の4分の1を握るSamsung、GDPを0.5pt削るか
Samsungの規模感を示す数字として、同社が韓国の輸出のおよそ4分の1を占めるという事実があります。韓国経済は今年2%の成長が予測されていましたが、中央銀行の匿名関係者によれば、今回のストライキで成長率が0.5ポイント押し下げられる可能性があるとされています。
ただし、影響は限定的にとどまる可能性も指摘されています。ストライキが予定の18日間を超えて長期化しなければ、経済への打撃は最小限に抑えられる見方です。なお、韓国政府は緊急仲裁を発動する権限を持っており、これが発動されればストライキは30日間停止され、その間に政府が労使交渉を仲介することになります。
現時点で読者が注目すべきウォッチポイントは2つあります。1つは木曜日のストライキ開始可否、もう1つは韓国政府による緊急仲裁発動の有無です。この2点の動向が、18日間という期間設定の中で事態が収束に向かうかを決める鍵となります。
土壇場の合意で18日間ストは回避へ——非メモリ部門へのボーナス拡大が鍵
ストライキ開始予定日の前日、事態は急展開を迎えています。Samsung Electronicsの労働組合は5月20日、計画していたストライキの開始を見送り、政府仲介による土壇場の交渉で得た暫定的な賃金合意を組合員投票にかけると発表しました。AIブームで急増する利益をどう従業員に分配するかを巡る最終局面での合意です。
非メモリ部門への配分拡大が転換点
同社は、収益性の高いメモリ部門に偏っていたボーナスを、利益の薄いファウンドリ部門など非メモリ部門へも拡大する組合の要求に歩み寄ったとされています。交渉の最終局面で、経営側は操業利益の約13%を提示し、組合は15%を求めて譲らない構図が続いていました。
韓国首相キム・ミンソク氏は、ストライキが最大100兆ウォン(約660億ドル)の経済損失を生む可能性があると警告しています。
首相による異例の警告が、政府仲介を加速させた一因と見られています。組合員投票の結果次第では合意が覆る余地も残っており、メモリ部門と非メモリ部門の配分バランスがどこに着地するかが今後の焦点となっています。
世界メモリ市場への衝撃——DRAM供給3〜4%・営業利益10%超のインパクト
ストライキが回避方向に動いた背景には、市場が織り込んでいた供給リスクの大きさがあります。Samsungは2025年第4四半期時点で世界DRAMの36%、NANDの28%のシェアを保有しており、メモリ市場における同社の停止は世界全体の需給を直接揺さぶる規模感です。
- 世界DRAM出荷への影響:18日間ストで3〜4%が混乱する可能性
- 世界NAND出荷への影響:同期間で2〜3%が混乱する可能性
- Samsungの2026〜2027年営業利益見通し:組合要求の完全受諾で約10〜11%押し下げ(Citigroup試算)
財務インパクトも甚大です。Citigroupは、組合の全要求を満たした場合、Samsungの2026〜2027年の営業利益見通しが約10〜11%押し下げられると試算しています。供給ショックが顧客側の在庫戦略やスポット価格に波及する一方、人件費増は中長期の収益体質を直撃する構図であり、Samsungにとっては労使どちらの解にも痛みを伴う交渉となっています。組合員投票の行方次第では、市場が一旦織り込みを解いた供給リスクが再浮上する余地も残されています。
Q&A
Q. SK Hynixはなぜボーナス上限の撤廃に踏み切れたのですか? SK HynixはAIブームによる利益を従業員と積極的に分配する方針を採用し、ボーナス上限を撤廃しました。これにより昨年は同社従業員のボーナスがSamsungより3倍高い水準となり、GSMArenaはSamsungがすでにSKへ一部の従業員を失っていると報じています。Samsungの労組はこの状況を踏まえ、年収の50%という上限の撤廃と、年間営業利益の15%のボーナス配分を要求しています。
Q. メモリ事業の従業員もストライキに参加するのですか? 報道からはDS部門全体の4万8千人が対象とされており、2万7千人規模のメモリ事業従業員もこの中に含まれます。ただしSamsungは生産ラインへの損害を防ぐため7,087人の職場残留を要請しており、月曜日には裁判所がSamsungの申し立てを一部認める部分的な仮処分を発令しています。メモリ部門は他のDS部門(System LSI、ファウンドリ)従業員と比較して最低6倍のボーナスを受け取る可能性があると報じられており、労組はこの内部格差自体を不公平と見ています。
Q. 韓国経済への影響はどの程度ですか? Samsungは韓国の輸出の約4分の1を占める巨大企業です。中央銀行の匿名関係者によれば、今年2%と予測されていたGDP成長率が、ストライキで0.5ポイント押し下げられる可能性があるとされています。ただし18日間を超えて長期化しない限り、影響は限定的にとどまる見方も示されています。