引き出しに眠っている古いスマートフォンが、思いがけない形で気候変動研究の現場に投入されています。マサチューセッツ大学アマースト校(UMass Amherst)の研究チームが、米国科学財団から60万ドル(約9,300万円)の助成を受け、不要になったスマホをカメラ・センサーに転用して個々の樹木の状態を追跡するプロジェクトを進めていると報じられています。手元で眠っているあの端末にも、まだ「次の役目」が残っているかもしれません。

9,300万円の助成で森を見張る——UMassの転用プロジェクト

主導するのは、UMass AmherstのManning College of Information and Computer Sciences(CICS)に所属するVP Nguyen助教です。米国科学財団(U.S. National Science Foundation)から60万ドル(約9,300万円)の助成を獲得し、再生可能エネルギーとバッテリーレス機器を組み合わせて自然環境の変化を検知する仕組みづくりに取り組んでいます。買い替えサイクルの早いスマホが、家庭の引き出しから直接「森のカメラ」になり得るというのが、このプロジェクトの面白いところです。

研究のパートナーは、北アリゾナ大学のPhenoCamネットワークと、ネブラスカ大学リンカーン校のGaugeCamです。スマホのカメラを「個々の樹木の健康状態」を観察する目に変え、気候変動がそれぞれの樹木に与える影響を、これまでより細やかな粒度で測定することを狙っています。

研究はカメラ単独では終わりません。樹木に埋め込むセンシングアレイ、樹木に取り付ける「ウェアラブル」、長距離通信、AIによる継続的なキャリブレーションといった要素を組み合わせる計画で、農業・園芸・環境保全のいずれにも資する基盤技術を志向しています。Nguyen助教は、これが農業・園芸・環境の保全において重要な要素だと述べています。

電源はソーラーと風——スマホからバッテリーを抜く理由

ユニークなのは電源設計です。スマホ本体のバッテリーは取り外され、代わりに「バッテリーレスシステム」で駆動するケースに装着されます。このケースにはキャパシタアレイが内蔵されており、ソーラーと風力(風力ハーベスタ)で発電した電力を貯めて利用する仕組みです。電源コードも交換用バッテリーも不要なので、人の手が届きにくい森林にもばらまきやすい設計です。

さらに、キャパシタアレイとケースそのものが生分解性素材として設計されている点も見逃せません。森林に置かれる観測機器が役目を終えたあとに、新たな環境負荷を残しにくい配慮です。高額な専用モニタリングカメラを新規購入する代わりに、家庭で眠るスマホを再利用できる点は、研究者側のコストメリットでもあります。読者の手元にある旧端末が、まさにこのコスト構造を成り立たせている部品でもあるわけです。

平均的な米国ユーザーは2年ほどで新しいスマホに買い替えると言われており、結果として大量の電子廃棄物が生まれます。Nguyen助教はこの「廃棄予備軍」を減らしたいという問題意識から、本プロジェクトに着手しています。

「耳」で森を守る先行事例——Rainforest Connectionの3億分

古いスマホを生態系保全に転用する発想は、今回が初めてではありません。先行事例として紹介されているのが、Rainforest Connectionの取り組みです。

Rainforest Connectionは、スマホにソーラーパネル・外付けマイク・カスタムソフトを組み合わせ、樹冠(じゅかん)に設置することで森の音を聞き取るネットワークを構築してきました。「Guardian 1(G1)」と呼ばれるこの装置は、原文の「three-square-mile radius」と表現される範囲(3平方マイル相当、あるいは3マイル半径とも読める表現)をリアルタイムで生物音響モニタリングし、チェーンソー・エンジン音・銃声などを検知して、違法伐採・密猟・山火事の早期発見に役立っています。

これまでに記録された熱帯雨林の音声は3億分(300 million minutes)を超えると伝えられています。同種の技術は新種の発見にも貢献していると報じられています。スマホを「目」として使うUMassのアプローチと、「耳」として使うRainforest Connectionのアプローチが並べて紹介されている構図です。読者にとっては、「処分してしまえば終わり」だった端末がどこまで延命できるか、その射程を示す具体例にもなっています。

読者にとっての示唆——「処分する前にもうひと役」という選択肢

本プロジェクトは研究機関による特殊事例ですが、買い替えサイクルが早いスマホというデバイスが、まだ使える機能(カメラ・通信・センサー類)を多く残したまま退役している現実を、改めて突きつけるものでもあります。

個人ユーザーがすぐに森林モニタリングに参加できるわけではないものの、「処分の前にもう一度何かに使えないか」を検討する余地は十分にあります。手元の古い端末をどう扱うかは、続報や類似プロジェクトの動向を見ながら判断するのが妥当です。

Q&A

Q. なぜ専用機ではなく、わざわざ古いスマホを使うのですか? スマホにはカメラ・通信・各種センサーがすでに高密度で搭載されており、専用のモニタリングカメラを新規購入するより低コストで観測網を組めるためです。米国では平均2年ほどで買い替えが起こるとされ、Nguyen助教は、まだ機能する端末が大量に廃棄される現状を減らしたいという問題意識から、再利用を選択しています。

Q. 個人ユーザーが似たプロジェクトに直接参加できる方法はあるのですか? 本プロジェクト自体は研究機関主導の特殊な取り組みで、現時点では個人がすぐに端末を提供して参加できる仕組みは明らかにされていません。詳細は出典元を参照してください。

Q. スマホの電源はどう確保しているのですか? 本体のバッテリーは取り外され、ソーラーと風力で発電してキャパシタアレイに蓄える「バッテリーレスシステム」のケースに収められています。キャパシタアレイとケースは生分解性素材で設計されています。

出典