インドの裁判所が、Appleに対して同国の競争当局によるApp Store独占禁止法調査への「全面協力」を命じたと9to5Macが報じています。争点となっているのは、制裁金の算定基準を「インド国内売上」ではなく「グローバル売上高(global turnover)」に置く改正競争法です。世界規模で事業を展開するAppleにとって、制裁金の理論上の上限が桁違いに膨らみうる枠組みであり、今回の命令は単なる手続き判断にとどまりません。Appleが求めていた審理の一時停止は認められず、当局による最終判断は7月15日の次回審理まで保留されることになりました。

デリー高裁、Appleに「全面協力」を命令

デリー高等裁判所は、Appleに対してインド競争委員会(Competition Commission of India、CCI)が進めるApp Store関連の独禁法調査に「fully cooperate(全面的に協力する)」よう命じました。Appleが求めていた審理全体の停止は認められませんでしたが、裁判所はCCIに対し、案件が7月15日に裁判所へ戻ってくるまで最終決定を下すことを禁じています。

裁判所はまた、Appleが一定の文書を記録に追加することも認めました。命令書ではその文書の内容は特定されていませんが、インドの独禁法における制裁金算定の枠組みに対するAppleの全体的な異議申し立ての一環である可能性が高いと報じられています。

桁が変わる制裁金——焦点は「グローバル売上高」基準

今回の紛争の核心は、Appleがインドの改正競争法に同意していない点にあります。改正後の法律では、違反企業に対する制裁金の上限を「インド国内の売上」ではなく「企業のグローバル売上高(global turnover)」に基づいて算定できるようになっています。Appleのような世界的企業にとっては、制裁金の理論上の上限が桁違いに引き上がる枠組みです。

Appleはこの算定方式そのものを裁判所で争っており、根拠法の合法性を争っている間はCCIによるApp Store関連の調査自体を一時停止するよう求めていました。今回の決定は、その「審理停止」の部分を退ける形となります。仮にCCIの主張が通れば、App Store手数料や外部決済の扱いなど、インドにおけるApp Store運用ルールが大きく見直される圧力となりうる点が、日本のテック関係者にとっても見逃せないポイントです。

財務情報の提出をめぐる攻防——5月21日ヒアリングが起点

Reutersの報道を引用するかたちで9to5Macが伝えているところによると、CCIは今月、Appleに対して財務情報を提出するよう最後通告を出し、5月21日に最終ヒアリングを設定していました。これを受けてAppleは、デリー高等裁判所に対して案件を緊急に保留するよう申し立てていた経緯があります。

CCI側は、Appleが「繰り返し延長を求めて案件を遅らせており、案件を前進させるために必要だとCCIが説明している財務情報の提出にも抵抗している」と非難していると報じられています。今月初旬には、Apple側もCCIが司法権限を逸脱していると批判しており、両者の主張は真っ向から対立する構図です。

裁判所が「全面協力」を命じた点はCCIの立場を支える内容ですが、最終決定を7月15日まで凍結した点はAppleの利益にも配慮しており、双方の主張のバランスを取った判断と読むこともできます。

次の節目「7月15日」で注視すべきポイント

今回の命令はあくまで手続き面の整理にとどまり、本案の結論はまだ出ていません。7月15日の審理に向けて、日本の読者が押さえておきたい論点は次の3つです。

  • 提出される財務情報の範囲:Appleがどこまでグローバル財務データを開示するか。CCIの請求どおりの全面開示なのか、限定的な開示にとどまるのか。
  • 「グローバル売上高」基準の合法性判断:制裁金算定の枠組みそのものが維持されるかどうか。維持されればAppleのみならず、インドで事業を行う他のグローバルプラットフォーマーにも波及します。
  • App Store運用への波及シナリオ:本案の結論次第では、インド向けApp Storeにおける手数料率や外部リンク・外部決済の扱いに具体的な変更が求められる可能性も否定できません。

リーク段階の憶測ではなく、裁判所命令という確かな根拠に基づく動きであるだけに、続報の重みは大きいと言えます。

EUと米国で進む「App Store手数料」見直し——インド議論の国際的背景

インドの今回の動きは単独で起きているわけではなく、世界各国でApp Storeの手数料構造に対する規制圧力が同時並行で強まっています。

2026年1月以降のEU新枠組み

EUでは2026年1月1日以降、Appleは単一のビジネスモデルに統合する一方で、配信方法や決済経路に応じて複数の手数料コンポーネントが組み合わさる構造へ移行しています。従来の1インストールあたり€0.50のCore Technology Feeは廃止され、デジタル商品・サービス売上に対する5%のCore Technology Commissionに置き換わり、App Store・Web配信・代替マーケットプレイスのすべての配信経路に適用されます。

この見直しの背景には強い制裁圧力があります。2025年5月、EUはAppleにDMA違反として5億ユーロの制裁金を科し、ルールを変更しなければさらなる制裁金が積み上がる猶予期間を設けました。さらに日本も2024年にモバイルソフトウェア競争促進法を可決しており、DMA型の規制を検討する地域が世界的に拡大しています。インドのCCIの調査も、この国際的な規制連動の一角として位置付けられます。

インドでの製造拠点化が増す「交渉カード」としての重み

今回の独禁法調査の背後には、AppleがインドをiPhoneのグローバル製造拠点として急拡大させている事業構造の変化があります。

指標数値・時期
2025年のインド生産台数約5500万台(前年比約53%増)
世界生産に占める割合約25%
PLI制度の期限2026年3月末
米国向けiPhone主要生産地化2026年末を目標

2025年のインドでのiPhone生産は前年比約53%増加し、前年の3600万台から約5500万台に達したと関係者が伝えています。Appleは2026年末までに米国向けに販売するiPhoneの大半をインドで組み立てる方針です。現行のPLI制度は2026年3月に期限を迎えるため、インド政府は次期制度で輸出実績との連動を強める方向で調整しています。

さらに2026年2月にはインド側で、Appleが特定の輸出向け区域において契約製造業者に最大5年間機器を提供しても追加の課税リスクを負わない措置が導入されました。製造面で深く相互依存が進むなかで、App Store独禁法調査は両者にとって単純な「処罰対決」では収まらない、複雑な交渉局面を生んでいます。

Q&A

Q. 今回の決定でAppleはApp Storeの運用方法をすぐに変更する必要がありますか? 今回の命令はあくまで調査への協力と、最終決定を7月15日まで凍結する内容で、App Storeの運用変更を直ちに命じるものではありません。ただし、本案でCCIの主張が認められた場合には、インド市場におけるApp Store手数料や外部決済の扱いに変更を迫られるシナリオも視野に入ります。

Q. なぜAppleはインドの制裁金算定方式に強く反発しているのですか? 改正後のインド競争法では、制裁金をインド国内売上ではなくグローバル売上高に基づいて算定できるようになっており、Appleのような世界企業にとっては潜在的な制裁金の規模が文字どおり桁違いに変わるためです。同種の枠組みが他国に波及するリスクも、Appleが強く争う動機になっていると見られます。

Q. 次に注目すべき日付はいつですか? 案件が裁判所に戻る7月15日です。それまでCCIは最終決定を下せず、Apple側は調査への協力を求められる立場となります。5月21日に設定されていた最終ヒアリングの取り扱いと、提出文書の範囲も注視点です。

出典