2機購入された改造ボーイング747、1977年から始まった試験飛行、そして2011年7月の退役——スペースシャトル計画を陰で支え続けた「Shuttle Carrier Aircraft(SCA)」の数字は、いま振り返ると意外なほど身近です。退役後の2機はそれぞれカリフォルニアとテキサスの施設で実物を見られる状態で残されており、SpaceXのドローン船回収が当たり前になった現代から眺めると、巨大旅客機の背中にシャトルを縛り付けて空輸していたという発想そのものが歴史的な光景に見えてきます。
C-5では運べなかった理由——NASAが747を選んだ2つの判断
スペースシャトルは見た目こそ飛行機に似ていますが、商用機が備えるターボファンエンジンを持たず、ロケットで打ち上がり、帰還時は滑空して着陸する乗り物です。そのため、着陸地点から次の打ち上げ地点まで戻す「運搬役」が必要でした。
NASAが運搬機の候補に挙げたのは、Lockheed C-5 GalaxyとBoeing 747の2機種です。最終的に747が選ばれた理由は主に2点とされています。
- 翼の設計がオービターの搭載に適していた:747の主翼形状は、巨大な機体を背中に載せて飛ぶうえで都合がよかった点。
- 所有形態とコストの問題:C-5は軍用機のため空軍から借りる必要があったのに対し、747はNASAが直接購入して完全に所有できました。1970年代の景気後退によって調達コストが下がっていた点も後押しになりました。
結果として、NASAは747を2機購入し、これがSCAの土台となります。
旅客機を貨物機に変身させた4つの改造
通常の747は旅客機ですが、SCAはオービターを背中に載せるために大幅な改造が施されています。
- 客室の撤去:座席をはじめとした内装はほぼ取り払われ、乗員用のファーストクラス・キャビンのみが残されました。
- モニタリング機器の搭載:撤去された場所には、飛行前・飛行中・飛行後の電気的負荷を監視するための機器が設置されました。
- 3本のストラット:胴体の上部にオービターを支える3本の支柱が取り付けられました。
- 2基の追加スタビライザー:既存の水平尾翼の両側に、左右の後部スタビライザーが追加され、シャトルを背負った状態でも機体を安定させる設計になっています。
スペースシャトル初打ち上げに先立つ1977年、つまり初打ち上げの4年前から、SCAを使った試験が実施されました。試験の中には、高高度で爆発ボルトを起動してオービターを切り離す「フリーフライト」も含まれ、シャトル側の乗員は機体システムの確認と着陸の練習を行いました。
役目を終えた2機——NASA 911とNASA 905のその後
SCAは、2011年7月のスペースシャトル計画最終ミッションをもって退役しました。
- NASA 911:2012年2月、現在のArmstrong Flight Research Center(カリフォルニア州エドワーズ)から、カリフォルニア州パームデールのJoe Davies Heritage Airparkへの短いフライトを最後に飛行を終えました。同機はNASAからの貸与というかたちで、現在も同所で一般公開されています。
- NASA 905:退役した4機のオービターを全米各地の博物館へ運搬する役を担い、最終的にはエドワーズ空軍基地からSpace Center Houstonへ飛び、複製のスペースシャトルを背に載せた状態で展示されています。
ボーイングは2023年に747の生産を終了していますが、機体自体は現在も運用が続いています。1980年代の技術ながら、米国の「ドゥームズデイ・プレーン(doomsday plane)」として有事に備える役割も担っており、747という機体そのものが軍民両面で長寿命なプラットフォームになっている点も注目されます。スペースシャトルとともに空を飛んだSCAは、その747の歴史の中でもひときわ象徴的な姿として残ることになります。
「Independence Plaza」——SCAに載ったシャトルの中に入れる世界唯一の場所
退役後のNASA 905が展示されているSpace Center Houstonの「Independence Plaza」は、SCAに搭載された状態のスペースシャトルの内部を一般来訪者が見学できる世界で唯一の場所として知られています。シャトル複製「Independence」がNASA 905の上に搭載されており、来訪者は両機の内部に入ることができます。
Independence Plazaの主な数字
- 基礎部分240トン、SCA 159トン、シャトル複製80トン
- 両機内へのアクセスには6階建てのタワーを使用しています
- ボーイングは「Shuttle and 747 Carrier Project」に450万ドルを寄付しました
- AOGチームが格納庫外で初めて747の翼を切り離す作業を実施しました
運搬実績の面でも、NASA 905はシャトル計画の運用フェーズで全87回のフェリー飛行のうち70回を担い、Dryden飛行研究センターからケネディ宇宙センターへ向かう54回のミッション後飛行のうち46回を担当しました。主力機として計画を支え続けた1機が、いまも当時の組み合わせのまま展示されています。
「クイーン・オブ・ザ・スカイ」の終焉——747生産終了とその背景
SCAのベースとなった747そのものも、すでに生産の歴史に幕を下ろしています。最終号機は747-8FのフレイターでAtlas Air向けに製造され、2022年12月6日にEverettの組立ラインを離れ、2023年1月31日にボーイングが正式に納入式典を行いました。
| 項目 | データ |
|---|---|
| 生産期間 | 1967年〜2022年(54年) |
| 累計生産機数 | 1,574機 |
| 最終号機型式 | 747-8F |
| 最終号機登録記号 | N863GT(愛称「Empower」) |
| 全長(747-8) | 76.2m |
747は1967年に生産が始まり54年間で合計1,574機が製造され、747-8は全長76.2mで運用中の旅客機として最長です。最終号機は登録記号N863GTを与えられ、愛称は「Empower」と名付けられています。
生産終了の背景には構造的な要因がありました。旅客機型の747は2017年以降生産されておらず、ETOPS(双発機の長距離運航基準)の拡大と、パンデミックによる四発機退役の加速が決定打となっています。
Q&A
Q. SCAは何機作られたのですか? NASAは747を2機購入し、それぞれ「NASA 905」「NASA 911」としてShuttle Carrier Aircraftに改造しました。両機は退役後、それぞれテキサスとカリフォルニアの施設で実物を見ることができます。
Q. なぜNASAはC-5ギャラクシーではなく747を選んだのですか? 主な理由は2つで、747の翼の設計がオービターを背負って飛ぶのに適していたこと、そしてC-5は軍用機のため空軍から借りる必要があったのに対し、747はNASAが直接購入して所有できた点です。1970年代の景気後退で調達コストが下がっていたことも背景にありました。
Q. なぜ後部スタビライザーが2基追加されたのですか? シャトルを胴体上部に背負った状態で飛行すると、空力バランスが通常の747と大きく変わります。既存の水平尾翼の両側に追加の後部スタビライザーを取り付けることで、巨大なオービターを載せた状態でも機体を安定させる狙いがありました。
出典
- BGR — Why NASA's Space Shuttle Hitched Rides On Top Of A Boeing 747
- Space Center Houston — Independence Plaza
- Space.com — NASA's Shuttle-Ferrying Jet Dismantled for Move to Space Center Houston