GoogleがGemini連携を一段と深めた次世代Chromebook「Googlebook」を発表する中、それをまったく別のかたちで再現した手作りプロジェクトが公開されました。XDA DevelopersのAyush Pande氏が、Raspberry Pi・FydeOS・自宅ノードで動かす26B/35BクラスのMoEモデルだけで「クラウド非依存のGooglebook」を組み上げた試みです。Chromium系ディストリビューションとローカルMoE LLMを組み合わせ、データを社外サーバへ預けずに済む構成を取った点が、本プロジェクトの中心に据えられています。

ChromeOS FlexではなくFydeOSを選んだ理由

Pande氏の出発点は、Googlebookに近いUIとAndroid連携を再現できるディストリビューションの選定でした。一般的な選択肢であるChromeOS Flexは非サポート端末向けのChromeOSですが、Androidアプリを公式にサポートしておらず、今回の用途には不向きと判断したと述べられています。

代わりに採用されたのが、ChromiumをベースにしたFydeOSです。Pande氏によれば、FydeOSには以下のような特徴があります。

  • 既定でGoogleアカウントが不要で、ローカルユーザーだけで運用できる
  • Googleクラウドアプリを同梱しない、いわゆる「de-Googled」な構成
  • AndroidアプリとLinuxサブシステムを両方サポート
  • microSDへの書き込みのみでRaspberry Piに導入可能

FydeOS上ではDarktable・VS Code・Kritaといった生産性アプリに加え、Play Storeを介したAndroidゲームやPSPエミュレータも問題なく動作したとPande氏は報告しています。Pi上での体験について本人は「Raspberry Pi OSよりも快適なほどだった」と評価していますが、DaVinci Resolveのような重量級ツールは想定外と明記されています。

10年前のGPUを呼び戻す——MoEモデルでGeminiの代替に挑む

AI機能の中核は、自宅ノードで動くローカルLLMです。Raspberry Pi単体では4Bモデルが上限とされており、Pande氏自身も「2台のSBCをRPCで連携させて9Bモデルを走らせる実験はカウントに入れない」とコメントしています。Geminiのようなクラウド規模の処理は当然望めません。そこで活用されたのが、MoE(Mixture-of-Experts)アーキテクチャを採用したQwen3.6-35B-A3BとGemma-4-26B-A4Bの2モデルです。

MoEモデルの強みは、内部構造の使い方にあります。Pande氏の説明によれば、従来型LLMでは層をまるごとCPUとシステムメモリにオフロードする必要があり、古いハードウェアでも動作はするものの、トークン生成速度が大きく落ちてしまいます。一方MoEモデルでは、エキスパートや使用頻度の低い部分はRAMへ、アテンション重みはGPU上に残せるため、旧世代のGPUでも目立った速度低下なしに駆動できると説明されています。要するに、数世代前のGPUに「もう一度AI処理を任せられる」ということです。

具体的なリファレンス機材としてPande氏が挙げているのが、10年前のGTX 1080です。この旧世代GPUを軸にした構成で、Geminiの数千億パラメータには及ばないものの、推論性能はクラウド版に「不気味なほど近づきつつある」と評価されています。

ハードウェアとソフトウェアの構成

本プロジェクトで言及されている主なハードウェアを整理します。

カテゴリ内容
端末側ホストRaspberry Pi
LLMホスト機の例10年前のGTX 1080を搭載した旧マシン
端末側で扱う上限4Bモデル(Pi単体の場合)
補助実験2台のSBC+RPCで9Bモデルを動作(本人は実用構成外と明言)
ローカルLLM(MoE)Qwen3.6-35B-A3B / Gemma-4-26B-A4B

そして、ソフトウェア側の構成は次の通りです。

カテゴリ内容
OSFydeOS(Chromiumフォーク)
生産性アプリDarktable / VS Code / Krita ほか
Android連携Play Store経由のAndroidアプリ・ゲーム・PSPエミュレータ
LLMフロントエンドOpen WebUI

セクション見出しで「decade-old machines(10年落ちのマシン)」と表現されている通り、ポイントは「最新GPUなしでも26B/35BクラスのMoEモデルを実用域で回せる」という体験設計にあります。

Pi単体では足りない——再現に必要な「もう1台」

同じことを再現したい場合、Pi本体だけでは不十分という点を押さえておくと安全です。35BクラスのMoEモデルを実用速度で回すには、Pande氏の構成のように別の自宅サーバ(=ある程度のGPUを積んだホームラボ)が前提となるためです。リーク段階で多くが不明なGooglebook本体を待つよりも、いま動かせるローカルLLM環境を組みたい層にとっては、参考価値の高いレシピだと言えます。

Pande氏も、Raspberry Pi単体で現行ノートPCを完全に置き換えるものではないと位置づけており、Googlebookに正面から対抗する完成品ではないという認識を示しています。一方で、FydeOSはPi上での体験が良好で、古いGPUをLLMホスト機として復活させる手法と組み合わせれば、日常用途には十分だと結論づけています。

FydeOS v22「Radiant Anatomy」がもたらす最新のベース更新

本プロジェクトの土台となるFydeOSは、2026年1月28日に大型アップデート版v22「Radiant Anatomy」が公開されました。基盤となるChromium OSはr138からr144へ引き上げられ、Pi上で「自作Googlebook」を再現する際にも、この最新版を踏まえた構成が現実的な選択肢になっています。

v22で押さえておきたい主な変更点

  • Quick Shareに対応し、近隣デバイス間でファイル・写真・リンクをやり取りできるようになりました
  • 1タブを2分割して表示できるSplit Viewが導入されました
  • GoogleがBorealis(Steam for Chromium OS)を2026年1月1日に終了したため、FydeOS v22以降ではSteam連携が削除されています

これらの変更点は、ローカル運用志向の構成にもそのまま反映できる前提となっています。

本家Googlebookの発表内容と「クラウド依存」をめぐる文脈

Googleは2026年5月12日に開催された「The Android Show: I/O Edition」でGooglebookを正式発表し、本年秋の発売を予告しました。本機はChromeOSではなくAndroidをコアに据え、そこにChromeOSの要素を取り込んだ新プラットフォームとして位置づけられています。

論点現状
Gemini処理の所在オンデバイス/クラウドの内訳は未公開
プライバシーGmail等でのGemini有効化を巡る連邦訴訟が係属中
既存ユーザー2021年以降のChromebookは最大10年のセキュリティ更新を継続

ローカル運用を志向する本記事の文脈では、データがどこまでデバイス外に出るのかが設計判断に直結します。

Q&A

Q. なぜChromeOS FlexではなくFydeOSが選ばれているのですか? ChromeOS FlexはAndroidアプリを公式にサポートしておらず、Googlebookに近いAndroid連携を再現できないためです。FydeOSはChromiumベースのフォークで、Androidアプリ・Linuxサブシステムの双方に対応し、デフォルトでGoogleアカウントも不要とされています。

Q. Pi本体だけでローカルAIを動かせますか? Raspberry Pi単体では4Bモデルが上限とされており、26B/35BクラスのMoEモデルは別途GPU搭載マシンへ処理を逃がす構成が必要です。Pande氏は2台のSBCをRPCで連携させて9Bモデルを動かす実験にも触れていますが、本人は「実用構成にはカウントしない」と明言しています。

Q. Geminiと比べて何ができないのですか? Geminiのような数千億パラメータ規模のクラウド処理には到底及ばないとPande氏は述べています。一方で、MoEモデルの推論品質はクラウド版に「不気味なほど近づきつつある」とされ、ネットワーク外にデータを出さずに済む点が、Pande氏がトレードオフを取った理由として強調されています。

出典